クリスマスディナーもおいしく!嚥下食最前線

              徳島赤十字ひのみね総合療育センター管理栄養士 清重智美

食べ物を飲み込むこと(嚥下)は、誰もが毎日何気なく行っていますが、実はとても複雑なメカニズムによって成り立っています。そのメカニズムとは①五感を使って食べ物を認識し、②口に入れた食べ物を歯や舌を使って咀嚼し、唾液と混ぜ合わせて飲み込みやすい塊(食塊)を作り、③舌を使って喉の奥へ送り込み、④ゴックンと飲み込んで食塊を食道に送り、⑤食道の蠕動運動によって胃に送る5段階の一連の動きをいいます。この動きは一瞬ですが、このいずれかまたは複数の段階で何らかの問題が発生する状態が摂食・嚥下障害です。摂食・嚥下障害が発生すると、必要な栄養量を摂ることができなくなり、低栄養になってしまいます。また、飲み込むときにむせてしまうために水分の摂取が難しくなり、脱水症状になってしまいます。さらに、食べ物や飲み物が食道ではなく、気管を通って肺の方へ入りやすいため、肺炎のリスクが高まります。肺炎はこのような食べ物・飲み物だけでなく、唾液が肺に入ることによって起こる場合もあります。

先ほど述べた低栄養や脱水、肺炎などの問題を未然に防いだり、改善したりするため、摂食・嚥下機能が低下した方でも安全でおいしく食べられる食事を作る必要があります。それが嚥下食です。嚥下食とは、口の中で咀嚼しやすい、食塊が作りやすい、飲み込んでも口の奥や喉に残りにくい、誤嚥しにくい食事で、具体的には、ゼリー状やムース状のもの、ミキサーにかけたペースト状のもの、ハンバーグ・つみれなど肉や魚を再形成したもの、柔らかく煮込んであるものをいいます。形状に幅がありますが、その人の摂食・嚥下機能に合わせて調整します。逆に、さらさらした水分、酸味の強いもの、ぱさぱさしたもの、弾力のあるもの、喉にくっつきやすいもの、口の中に粒が残りやすいもの、線維の多いものは、摂食・嚥下障害がある方にとっては危険な物であり、ミキサーにかけたり、とろみをつけたりして加工することで食べられる場合もあります。

嚥下食は普通の食事からさらに一手間かけるため、負担を感じることもあると思います。現在、簡単に扱えるゼリー化剤や、とろみ剤が各社から発売されています。さらに、調理済みの嚥下食や簡単に作れるフリーズドライの嚥下食も増えてきています。それらを適宜使用しながら、食べる方も料理をする方も負担の少ない、安全でおいしい嚥下食を作っていただきたいと思います。

最後に、クリスマスメニューで定番の照り焼きチキンのレシピを紹介します。

やわらか食(形はあるが、舌で押しつぶしやすく、飲み込みやすいもの)
《材料(1人分)》331kcal ・照り焼きチキン 鶏ミンチ80g 長いも30g 卵1/2個 だし汁20ml オリーブ油5g しょうゆ大さじ1 みりん大さじ1 砂糖小さじ1 ・マッシュポテト   普通食と同じ ・茹で野菜   普通食と同じ
・照り焼きチキン ①鶏ミンチ、長いも、卵、だし汁、オリーブ油をミキサーで撹拌し、電子レンジ使用可能な容器に ラップを敷き、流し込む。 ②電子レンジで500W6分程度加熱する。 ③鶏肉を取り出し、食べやすい大きさに切り、器に盛る。 ④調味料を鍋で煮詰めて、鶏肉にかける。 ・マッシュポテト 普通食と同じだが、粒が残らないようにしっかりつぶす。 ・茹で野菜 指で軽く押しただけでつぶれるくらいになるまで、長めに茹でる。
普通食
《材料(1人分)》329kcal ・照り焼きチキン 鶏もも肉100g しょうゆ大さじ1 みりん大さじ1 砂糖小さじ1 ・マッシュポテト   じゃがいも30g 牛乳小さじ1 バター2g 塩こしょう少々 ・茹で野菜   人参30g ブロッコリー30g
・照り焼きチキン ①鶏肉を、皮を下にしてフライパンで焼く。皮に色が着いたらひっくり返し、中に火が通るまで しっかり焼く。 ②出てきた油をキッチンペーパーで吸い取り、調味料を入れ、しばらく煮詰めながら鶏肉に しっかりとからめる。 ③鶏肉を取り出し、食べやすい大きさに切り、皿に盛る。 ④フライパンに残った調味料をしばらく煮詰め、皿に盛った鶏肉にかける。 ・マッシュポテト ①じゃがいもを適当な大きさに切り、鍋で茹でる。 ②火が通ったら湯を切り、ボウルに移し、暖かいうちにマッシャーでつぶす。 ③牛乳、バター、塩こしょうを加え、味を調える。
ペースト食(ピューレ・ペースト状で、舌で押しつぶさなくてもよく、口の中でまとまっているもの)
皿の上の食べ物

自動的に生成された説明《材料》1人分309kcal ・照り焼きチキン(2人分) 普通食の照り焼きチキン120g だし汁60ml オリーブ油10g とろみ剤 しょうゆ大さじ1 みりん大さじ1 砂糖小さじ1 片栗粉少々 ・マッシュポテト(5人分)   普通食のマッシュポテト75g だし汁75ml   オリーブ油12g とろみ剤 ・茹で野菜(5人分)   茹で人参100g だし汁50ml オリーブ油10g   とろみ剤   茹でブロッコリー100g だし汁50ml オリーブ油10g とろみ剤 ※量が少ないとミキサーがうまく回らないため、2人分や 5人分で掲載しています
・照り焼きチキン ①普通食のチキン、だし汁、オリーブ油、とろみ剤をミキサーで撹拌し、器に盛る。 ②調味料を鍋で煮詰めて、水溶き片栗粉でとろみをつけ、鶏肉にかける。 ・マッシュポテト、人参、ブロッコリーも、それぞれ材料とともにミキサーで撹拌し、器に盛る。
ムース食(ゼリー・ムース状で、少量すくってそのまま丸呑みできるもの)
皿の上の食べ物

自動的に生成された説明《材料》1人分263kcal ・照り焼きチキン(2人分) 普通食の照り焼きチキン80g だし汁100g オリーブ油10g ゼリー化剤 しょうゆ大さじ1 みりん大さじ1 砂糖小さじ1 片栗粉少々 ・マッシュポテト(5人分)   普通食のマッシュポテト75g だし汁75ml   オリーブ油12g ゼリー化剤 ・茹で野菜(5人分)   茹で人参100g だし汁50ml オリーブ油10g   ゼリー剤   茹でブロッコリー100g だし汁50ml オリーブ油10g ゼリー剤 ※量が少ないとミキサーがうまく回らないため、2人分や 5人分で掲載しています
・照り焼きチキン ①普通食のチキン、だし汁、オリーブ油、ゼリー化剤をミキサーで撹拌し、鍋に移し、85℃以上に なるまで加熱する。 ②型に流し入れ、冷やす。 ③固まったら、器に盛る。 ④調味料を鍋で煮詰めて、水溶き片栗粉でとろみをつけ、鶏肉にかける。 ・マッシュポテト、人参、ブロッコリーも、それぞれ材料とともにミキサーで撹拌し、鍋に移して 加熱し、型に流し冷やし固める。

※とろみ剤、ゼリー化剤の割合は製品によって異なります。また、ゼリー化剤は加熱不要のものも

あるので、パッケージをご確認ください。